少女少年SS(ミノリルート)一部ダイジェスト(2/2)

 
前回までの話
妹と自宅ですごしていたあおい。
すると突然、稔が家にやってくる。
「あおい! お願いがある! 今日、オレをあおいの家に泊めてくれ」
 
 
あおい「えぇぇぇ!!」
稔「お願いだ。頼む」
あおい「ちょっと! どうして?」
  
空「どうしたの? あおいちゃん? 玄関で大きな声を出して」
 
あおいの妹、空が玄関へ駆けつける。
そこで、稔と鉢合わせする。
 
稔「ど、どうも、こんばんは……」
空「え、えぇぇぇぇ! ミ、ミノリちゃん?」
あおい「こら、空ってば、そんな大きな声で……」
空「あおいちゃん! どうしてミノリちゃんが突然家に? 今までメンバーをうちに連れてきたことの無いのに」
あおい「う〜ん……、それがボクにも……」
稔「あおい、それなんだけど、オレ……」
あおい「わ、わぁ〜〜〜!!」
 
稔が自分の一人称を言いそうになると、急いで口を閉じさせるあおい。
 
稔「う〜〜むごむご……」
あおい「ふぅ〜〜」
空「どうしたの?」
あおい「そ、それの事でちょっとみの……ミノリと話すことがあるから、少し戻っていてくれる? 空」
空「えぇ〜〜!」
あおい「ちょっとメンバーだけで話したいから。ね」
空「……わかったよぉ〜〜」
 
空が家に戻ってのを見て、あおいは手を稔の口から離す。
 
稔「ぷはぁ〜〜! って何するんだよ、あおい」
あおい「ダメだよ、稔。ここで自分の事『オレ』なんていっちゃ」
稔「へ? 別にあおいとあおいの妹だけだからいいだろ?」
あおい「ボクは良くても、空の前はダメなの? 空は、ミノリが実は男だなんて知らないんだから」
稔「え? もしかして、あおい、何も話してないの?」
あおい「言えないよ……。空は、前からパープルガールのファンなんだから……。それメンバーが実は全員男だなんて」
稔「いい機会だから言っちゃえばいいのに」
あおい「だ〜め。空の夢を壊すわけにいかないんだから」
稔「そんなもんか……」
あおい「それはそうとどうしたの? 突然、泊めてくれなんて」
稔「ああ、ちょっと、家出してきて……」
あおい「家出!? って、何かあったの?」
稔「……それについては……後でいいか? とにかく一晩だけでも泊めてくれ。お願いだ!」
 
なし崩し的に稔を家に泊めることになったあおい。
稔を家に連れ込む。
 
あおい「……と言う訳で空。ミノリが今日、止まることになったけど、いいよね」
空「……」
稔「よ、よろしく……」
空「……」
 
呆然と見ている空。
 
あおい「どうしたの? 空?」
空「ちょ、ちょっと……あおいちゃん」
 
あおいの手をつかんで、稔のいない影へ駆け込む空。
 
空「どうして、突然、ミノリちゃんが家に泊まりに来るの!」
あおい「どうしてって? それは今言ったでしょ」
空「そうだけど……何かおかしくない?」
あおい「……おかしいって何が?」
空「だって、ミノリちゃんは、あおいちゃんが男だって事、知ってるんでしょ?」
あおい「う、うん……知ってるけど……」
空「だったら、おかしいでしょ? 何でよりにもよって男であるあおいちゃんの家に泊まりに来るの!?」
あおい「え? え〜と」
空「普通だったら、他のメンバーの家に泊まりに行けばいいじゃない? 他は女の子同士なんだから」
あおい「う、う〜ん(他のメンバーも、ミノリも実は男なんだけどね)」
空「あたしだったら、家出したとしても絶対に男の子の家に泊まりに行かないって。絶対、変だよ」
あおい「あ、あははは……(困ったな……どう説明しよう……)」
空「ふ〜〜ん……もしかして、そういうこと?」
 
空があおいのことをジト目で見てくる。
 
あおい「へ? そういうことって?」
空「あおいちゃんとミノリちゃんって、いつの間にかそういう仲になっていたとか?」
あおい「そういう仲って……違うよ。空ってば」
空「むぅ〜〜、どうだか」
あおい「そ、それはそうと、嬉しくないの? 空って前から、他のメンバーをうちに連れて来いって言っていたじゃないか?」
空「そ、それはそれ! これはこれ!」
 
 
結局、空を説得して稔を泊まらせることにする。
食事を食べていない稔のため、軽い食事を作ったあおい。
 
 
稔「ふ〜〜、ご馳走様。あおいって本当に料理上手なんだ」
あおい「別にこんなの大したこと無いって、ちょっと簡単なのを作っただけだよ」
稔「いや、大した物だって。オレ……あ、あたしなんて、全然料理できないし……、いつも出前かレトルトばっかりだし」
 
そこに空が口を挟む。
まるで皮肉と嘲笑を混ぜたかのような口調で。
 
空「ふ〜〜ん、ミノリちゃんって女なのに料理できないんだ」
稔「え? う、うん……」
空「ちなみにあたしは、料理くらいできるわよ。あおいちゃんほど上手くはないけど」
稔「え〜〜と……」
空「やっぱり、女の子だし、料理くらいできないとね」
稔「う〜ん……そ、そうだね……」
 
困り果てている稔を見てあおいが口を挟む。
 
あおい「こら、空。失礼でしょ。そんなこと言っちゃ」
空「むぅ〜」
あおい「空ってば」
空「分かったよ。それから、あおいちゃん。あたし、買い物行ってくる」
あおい「買い物って何を買いに?」
空「明日のご飯の材料。今、あおいちゃんが使っちゃったからまた買いに行かないと」
 
 
買い物に出かけた空。
そして、残されたあおいと稔は、深く呼吸する。
 
 
稔「ふぅぅ〜〜。何か怖かった」
あおい「どうしたんだろ、空。まだ機嫌直してないのかな?」
稔「おい、あおい。本当に妹さんってオレたちのファンなのか?」
あおい「う、うん」
稔「オレ、嫌われてないか?」
あおい「そんなはずないって。多分、機嫌が悪いだけだよ」
稔「そうかー、オレに対してすげー棘があるように思えるんだけど」
あおい「そ、そんなはずないって……多分」
 
 
食事の後始末も終わり、ゆっくりとお風呂に入るあおい。
 
あおい「ふーー。いいお湯ー」
 
風呂の外から声がする。
 
稔「おーい。あおい。オレも一緒に入っていいかー?」
あおい「え? うん。別にいいけど」
稔「それじゃ、お言葉に甘えて」
 
扉を開けて入ってくる稔。
勢いよく湯壷に入る稔。
 
稔「ふぅー。いい湯だなー」
あおい「もう、稔ってば、もっとゆっくりお風呂にはいりなよ」
稔「あはは、ごめんごめん……」
あおい「それから、聞いていい? 稔」
稔「ん? 何を?」
あおい「家出した理由だよ?」
稔「ああ、そのことか……?」
あおい「うん、さっき後で話してくれるって言っていたよね」
稔「………」
あおい「稔。話せないことなの?」
稔「あー。そのことなんだけどな……」
あおい「うん……」
稔「実は……」
 
その瞬間、玄関のドアが開く音と共に声が聞こえる。
空「あおいちゃん、ただいま。買ってきたよ。あれ? あおいちゃん? ミノリちゃん? 何処にいるの?」
 
あおい「あ、空」
稔「妹さん帰ってきたみたいだな」
あおい「お〜い。空。ボクはお風呂にいるよ〜!」
 
風呂の中から妹に向って大きな声で叫んだ瞬間、おかしなことに気付くあおい。
 
あおい「あれ? ボク、何か大事なことを忘れているような?」
稔「何だ? 大事なことって?」
あおい「う〜〜ん、思い出せないなぁ〜」
 
空が風呂場に近づいてきて更に声をかける。
空「あおいちゃん。ミノリちゃんは何処? 見当たらないんだけど」
 
あおい「ああ、ミノリならここ………ってわぁぁぁぁ!」
稔「どうした……ってむぐぐ?」
空「どうしたの? あおいちゃん」
あおい「なんでもないよ空。ただ、ちっちゃい虫がいたから」
 
稔(どうしたんだ、あおい)
あおい(どうしたんだじゃないよ。考えてみたらボクたち一緒にお風呂なんかに入ったらダメじゃないか?)
稔(え?)
あおい(空の前じゃ、ボクと稔は、男の子と女の子なんだから)
稔(あ、しまった)
あおい(ど、どうしよう)
 
更に空が風呂場に近づいてきて言う。
空「ねぇ、あおいちゃんってば。ミノリちゃん何処かは知ってる?」
あおい「え、え〜と……そう! ミノリなら、か、買い物に行ってよ」
空「買い物? あたしが行っている最中なのに?」
あおい「え、え〜と……そ、そう、ミノリは食後のジュースを買いに行ったんだよ」
空「ふ〜ん、あたしに言えば買ってきてあげたのに」
あおい「あ、あはは……急に飲みたくなっちゃったみたいで……」
空「そう……それじゃあさ、あおいちゃん」
あおい「な、何? まだ何かあるの?」
空「背中、ながしてあげよっか?」
 
あおい・稔(びくっ)
 
あおい「な、何言っているんだよ、空。もう、高学年になったんだから駄目だって言ったじゃないか?」
空「ふ〜んだ。わかってますよ〜だ」
 
風呂場の前から去っていく空。
一息つく2人。
 
あおい「た、助かったぁ」
稔「危なかったなぁ」
あおい「何で、男の子同士で入っているのにこんなにハラハラドキドキしなきゃいけないんだろう?」
稔「全くだ?」
あおい「もう、反省してないでしょ。稔」
稔「悪かったよ。考えなしに行動して」
あおい「全く……」
稔「そ、それはそうと、妹さんって、いつもああなの?」
あおい「ああって?」
稔「いや、一緒にお風呂はいるとか言ってたから」
あおい「ち、違うよ。いつもは絶対あんなこと言わないよ」
稔「そうなのか?」
あおい「空、どうしちゃったんだろう。今日は」
稔(もしかして、オレに対するあてつけかな?)
 
 
無事、風呂を出た2人。
そして、就寝時間がやってくる。
 
あおい「あ、もう、こんな時間。もうそろそろ寝ないと」
空「そうだね。それから、ミノリちゃんの寝る場所どうしようか?」
稔「ああ、オ……あたしは……あおいと同じ部屋でいいよ」
 
ピキ
何かが凍りついたような音がする。
空は、怒りに震えている(ように見える)
稔も今の言葉の失言に気付いたようだ。
 
空「ってミノリちゃん! 何考えてるの! あおいちゃんは男だって分かってるんでしょ! ダメに決まってるじゃない!」
稔「ご、ゴメンなさい……ただ、あおいって普段は女の子として活動しているから、男の子っていう意識があんまりなくて」
空「それでも、あおいちゃんは、ちゃんと男の子なんだから」
稔「ゴメンなさい……」
空「もう、使っていない客室があるからそこで使ってよ」
あおい「そ、それじゃ、ボクはその部屋に布団を運ぶよ……」
 
 
就寝時間。
あおいは自分の部屋でベッドに入りながら考え込んでいる。
(今日はいろんなことがあったな)
(結局、稔の家出した理由も聞けなかったし)
(空も、何か様子がおかしかったし)
 
トントン
 
眠りに付こうと思った瞬間、ドアを叩く音が聞こえる。
 
あおい「誰?」
稔「オレだけど、入っていいか? あおい」
あおい「うん、いいけど」
 
部屋に入ってくる稔。
今日の事で話をする2人。
 
あおい「それから、今日はちょっとゴメン」
稔「ゴメンって? 何が?」
あおい「空が失礼なことばっかり言っているような気がして……」
稔「あはは……気にしてないって。それを言うなら押しかけたオレの方がずっと失礼だし」
あおい「もう、普段はああじゃないのに、どうして突然訳の分からないわがまま、言い出すんだろう」
稔「訳の分からないわがまま?」
あおい「ボクは髪を切っちゃダメだとか、男らしい服を着ないでくれだとか」
稔「あはははははは……」
あおい「笑い事じゃないよ。そのせいでボクは……」
稔「でも、羨ましいよ」
あおい「え?」
稔「口うるさく言われるのも、我侭言うのも家族の証拠だろ」
あおい「そうかなぁ」
稔「それに家に帰ると、妹さん。いつもいるんだろ」
あおい「そりゃそうだけど」
稔「オレの家なんて、家に帰っても、家族がいるなんてほとんどないし」
あおい「あ……」
 
軽い沈黙が流れる。
 
稔「……いや、ゴメン、変な事いって」
あおい「……それから、聞きそびれていたけど、家出の理由って何なの?」
稔「……」
あおい「ボクでよかったら聞くけど」
稔「今日……」
あおい「うん」
稔「家に帰ったら、珍しく母さんが先に帰っていた」
あおい「え?」
稔「それで父さんとの離婚の話がついたって」
あおい「え、え、離婚?」
稔「そして、母さんがオレを引き取ることになったから、北海道までついて来いって……」
あおい「北海道って? じゃ、じゃあ仕事は?」
稔「でも、オレは、芸能界の仕事があるから東京は離れないって言ったさ」
あおい「そ、それで」
稔「でも、母さんは、どうせ大した人気じゃないんだから、別にいいでしょって言われた」
あおい「え? ちょ、ちょっと、パープルガールを大した人気じゃないなんていったら、人気のアイドルなんてこの日本に……」
稔「知らないんだよ」
あおい「え?」
稔「母さん達は、オレが芸能界に入っているのは知っていても、パープルガールのミノリであることは知らないんだ」
あおい「え? え?」
稔「オレが女装して美少女人気アイドルやってます、なんていったら多分怒るだろうな」
あおい「え? でもそれっていくらなんでも……。だって、稔は女装する時、みずきたちとは違ってウィッグもつけないし……。ミノリはいつもテレビに出てるから、それを見れば気付くはずじゃ……」
稔「それに気付かないほど、オレに無関心なんだよ……母さんも父さんも」
あおい「稔……」
稔「オレ……今日、母さんにあんなこと言われたり、あおいと妹さんを見たりして、家族ってのがよく分からなくなっちまった」
あおい「稔……ボクは……」
稔「あおい……、オレ、まだ芸能界を続けたいよ」
あおい「うん、ボクも稔にはまだいてほしい」
 
その後、あおいとミノリはまだ話をして、眠りについた。
 
 
チュンチュン
鳥のさえずりと共に朝がやってきた。
寝息を立てているあおいとミノリ。
そこでドアが開く。
 
空「あおいちゃん。ほら、朝だよ。今日はめずらしく、あたしが起こしにきてあげたよ」
 
ドアを開けた瞬間。
ミノリがあおいの部屋で眠っているのを見て凍りつく空。
 
空「な、ななななななななななな! 何よ! コレぇぇぇぇ!!!!」
 
あおい「んんんーーー」
稔「ふぁぁぁぁ〜」
 
起きた2人は顔を見合わせる。
 
あおい(し、しまったあのまま寝ちゃったんだ)
稔(ど、どうしよう)
 
空「どういうことなの! どうしてあおいちゃんとミノリちゃんが一緒の部屋で寝てるの!?」
あおい「あ、あの、別のコレには深い意味はなくてね……」
稔「そ、そう、ただの誤解だって」
空「深い意味も、誤解もあるかー! 説明しなさい!!!!」
 
その後、色々説明(言い訳)を試みたものの、ミノリが男だということを伏せたままの説明だった為、つじつまの合わない話になってしまう。
結局、空は更に機嫌を悪くしてしまい、不穏な空気は昼まで続いた。
 
(稔……家族ってのも色々大変だよ)