少女少年SS

少女少年の雪火SSですが、まだ完成しません。
これも、かなり苦労してはいるんですが…
とりあえず、書いた途中までここで書きます。
というか、このSS自体ほとんどの人が忘れていると思いますが……まぁ、そもそも自己満足みたいなものですから……。
まだほとんど見直ししていないため多分誤字脱字だらけ。
実際に書くときにまで修正します。
 
 
 
 
ゲートをくぐると軽やかな音楽と共に、目に映る遊園地。
パロットタウンは、大賑わいだった。
様々な所から聞こえてくる喧騒と、見渡す限りの人。
これは、アトラクション一つ乗るのにも苦労しそうだ。
 
しかし……
雪火は、改めて見渡してみた。
カップルばっかりだな)
 
小学生くらいで、男の子の手を引っ張って走る女の子。
2人でガイドブックを見ながら、中学生らしいカップル。
 
腕を組んで歩いている20代の男女。
 
一応、家族連れや、友達で来たような人たちもいるのだが、カップルの数が圧倒的に多い。
しかし、自分と允も、傍から見れば男と女。
(オレたちも、カップルに見えているのか?)
 
確かに允は女の子……しかも絶世の美少女にしか見えない。
他の男たちは、允と付き添っている自分を見たら間違いなく羨むだろう。
そう考えるとドキドキしてきた。
しかし、当の允は周りを見渡しながらただ、はしゃいでいた。
遠くに見える絶叫マシーンを見て話す。
「あ、新しいアトラクションだ。あんなの前なかったのに」
くいくいと、激しく雪火の袖を引っ張る。
「おいおい、雪火! あれ見てみろよー。バンジージャンプだって」
 
(まったく……こいつは、オレの気も知らないで……)
雪火が心の中でため息をついた。
 
允が歩くたび、ぐいっと引っ張られる。
まだ雪火の服の袖を握ったまま、知らずに走っている。
油断していると転びそうだ。
(でも、これはこれで何か心地いいな)
雪火は甘えられているみたいで少し心地よかった。
 
 
 
 
允は、ひとつのアトラクションの前で立ち止まった。
 
ゴオオオオォォォォォォォォッ!!!!
「「「「きゃゃゃゃーーーーーーっっっっ!!!!!」」」」
「「「「わぁぁぁぁーーーーーーっっっっ!!!!!」」」」
ものすごい勢いで滑り落ちる音と共に、嬌声が鳴り響く。
遊園地の定番の一つ、絶叫マシーンのジェットコースターだ。
 
それを見て、雪火の袖をぐいぐい引っ張りながら允は言う。
「ジェットコースターに乗ろうぜ。ジェットコースター」
「ジェットコースター?」
ジェットコースターに最初に乗るのもある意味定番だろう。
しかし、なぜか戸惑ってしまった。
雪火自身ジェットコースターが、苦手というわけではない。
しかし、何か心に引っかかるものがあるのだ。
 
それがいったい何なのか……
(う〜〜ん)
腕を組んで考え出した。
 
それを見て、允はにんまりと笑う。
「あれ〜? もしかして雪火ってば怖いのか〜♪」
「なっ!」
どうやら、悩んでいるのを允に怖がっているととられた様だ。
「ふふふっ、雪火ってば、クールでかっこつけてるくせに、意外とかわいいとこあるんだな〜♪」
「かっ、かわいいって……」
雪火は顔を赤くして、慌ててまくし立てた。
「だっ、だから、べ、別に怖くなんてないって……、ただ、何かが引っかかるだけで……だから、俺が『かわいい』なんてことは……」
ついわけが分からない事まで話してしまう。
怖いといわれたからではなく「かわいい」といわれたことが大きな原因だが…。
 
「あははは、だったらいいだろ? 一緒にのろーぜ♪」
「う、わかったよ」
 
 
並び始めてから十数分。
雪火の中で、並んでいる今も何か心に引っかっていた。
それが何なのかはまだわからないのだが。
(一体、何がひっかかっているんだ? 俺は)
 
前を見る允が口を開く。
「しかし、長いな。この列」
見る限りでは、前にはまだ列がある。
「ああ、まだあと20分はかかりそうだな」
「この待ち時間が遊園地の最大の欠点だな〜」
允はうんざりした顔で前を向いた。
 
やがて、時間も過ぎて、列が短くなってくる。
「あ、雪火。あと3分ぐらいで乗れるぞ」
允ははしゃいで雪火に伝える。
雪火は、ふとジェットコースターの方に目を向けた。
 
ゴオオオオォォォォォォォォッ!!!!
「「「「きゃゃゃゃーーーーーーっっっっ!!!!!」」」」
「「「「わぁぁぁぁーーーーーーっっっっ!!!!!」」」」
 
遠くからでも聞こえる強烈な叫び声。
そのジェットコースターを見る限り、どうやらかなり激しいコースようだ。
最初は、ものすごい勢いで急降下した後、何度もカーブをしている。
そして、一回転して……
 
(え!?)
「一回転!」
 
雪火はそれを見てつい声をあげてしまった。
「どうしたんだ雪火?」
「どうしたっじゃない。允、これは駄目だ!」
「え〜、もうしかし、今更怖気づいたのか〜」
「違う! そうじゃなくて、お前。このジェットコースター。回転するだろ?」
「ああ、それがこのジェットコースターの醍醐味だろ」
「おまっ 一回転しているうちにとれちゃうだろ」
允は未だ何のことかわからず頭に「?」を浮かべている。
そこで雪火は小声で付け足した。
「かつらが……」
「え?」
 
「だから! かつらが取れちまうだろ! ジェットコースターになんか乗ったら!」
つい大声で言ってしまった。
そういってやっと允も気付いたようで手を打った。
しかし、周りを見るとひそひそと話しているようだ。
(げっ、やば、もしかしてバレたか!)
雪火は冷や汗をかきながら耳を立てた。
「ねぇ、あの子、かつら取れちゃうだって」
「それって、もしかして、あの男の子って若ハゲ?」
「や〜ん、見た感じ凄くかっこいいのに、ショック〜」
 
「……」
どうやら、かつらをつけていると思われたのは、雪火の方のようだ。
(ばれなくて済んだけど、何かなっとくできねぇ)
 
 
 
「もうっ、雪火って、もっと早くに教えてくれればよかったのに」
「仕方ないだろっ、オレだって乗る寸前で気付いたんだから」
雪火は、つい声を荒げて言う。
「というかお前の方が、そういうことはよく知ってるだろ。かつらつけたままでジェットコースターはやばいって」
「そんな事いっても、オレ、女装して遊園地来るのは初めてだし」
「……そうなのか?」
「そうだって。お前以外の奴の前じゃ、安心して女装なんてできやしないし」
「なっ! それは、ど、どういう……」
……安心して?
頼られてるってことなのか?
雪火の脳内で渦巻いている間にも、允は雪火の袖をつかんで歩き出していた。
 

……
………
 
「しかし、どのアトラクションも混んでるな」
見渡す限り、ほとんどのアトラクションに行列ができていた。
待ち時間が30分以上なんてのは、ざらにあるし。
とりあえず、空いているアトラクションから乗ろうと2人で先ほど相談したのだが、とても見つかりそうに無かった。
 
「うわ、あんなに並んでる。来た時はあんな行列になってなかったのに」
「やっぱり、ジェットコースターに待ち時間食っちまったからな」
先ほどのジェットコースターで無駄な時間を使ったのが今更ながら悔やまれる。
長蛇の列を見て、2人してため息をついた。
「もう、セッカが早く気付いてくれればよかったのに」
「って、オレのせいかよ」
 
くすくす……
その言い争いを聞いてか、周りから笑い声が聞こえる。
傍から見れば、ほほえましいカップルの喧嘩にしか見えないのだろう。
視線が妙に生暖かい。
雪火はその視線を気にして、俯いた。
允は、気にもせず歩いていたが。
 
「あっ、セッカ、セッカ〜♪」
突然、允が腕を引っ張る。
「あれ、見てみろよ。空いてるみたいだぞ」
允のさした方向に確かに行列は無かった。
しかし、ずいぶん寂れた感じでアトラクションと言うよりは、ただの一軒家だ。
『占いの館』
看板にはそう書かれていた。
「……おいおい、允、こんな所に入るのか?」
「別にいいじゃん。どこも並んでいるんだから、入れる所から入ろうぜ」
「でもなぁ……」
 
何か、異常なほどの妖しさを感じた。
違うアトラクションには、ぞろぞろと並んでいるのに、なぜここは全く人が入っていないのか?
空いていること自体、危険なにおいがする。
允は全く気に留めていないようだが、雪火は足が進まなかった。
 
「ほら、セッカ。早く来いよ」
允はいつの間にか、占いの館の前に立っていた。
そして、手招きして呼んでいる。
気乗りしないが行くしかないようだ。
「はぁ……」
雪火はため息一つついて、允の後を追った。
 
 
占いの館の内部はたいしたことが無かった。
ドアから入るなり、ずっと何も無い薄暗い一本道が続いているだけ。
そして、終着点に占いの機械がぽつんと置いてあるだけだった。
この程度なら、ゲームセンターにでもおいて置けばいいのに。
アトラクションでありながら、あまりにも質素すぎる。
「なんて、しょぼさだ」
雪火は呆れたように独り言をつぶやくが、允は機械をいじっている。
「セッカ〜。これいろんな占いが出来るみたいだぞ。金銭のこととか、将来の事とか」
「そうか」
「だったら、何を占う?」
「別にオレは何でもいいぜ。お前が決めてくれ」
「ん〜だったら……」
允はそれを聞いて、色々と機械のいうとおりにボタンを押していく。
ずいぶん楽しそうにうっている。
雪火は気になって画面を覗き込んだ。
「で、結局、何の占いにしたんだ?」
「うん、金銭占いとどっちにするか悩んだけど、俺とお前の相性占いにした」
「ぶっ」
雪火は噴出した。
つい、あわてて允に突っかかる。
「あ、相性占いって……そ、それって普通は男女でやるものだろっ!」
「別にいいだろ。せっかく2人で入ったんだから、2人で占えるものにした方が得な気がするし」
「一体何が得なんだよ……」
雪火は、少し呆れた。
人の気も知らず、相性占いとは……。
そんなことされると、つい期待してしまう。
 
「セッカ、セッカ、ほらここにお前の事を入力してくれ」
「う……分かったよ」
雪火は仕方なしに打ち込んだ。
名前、年齢、誕生日、血液型等。
(名前とか、血液型とか、誕生日とかで相性が決まるなんてあてになんねーな)
 
全て打ち込んだ後で結果が出るのを待つ。
允は、ニコニコと笑いながら結果を待っているようだ。
一方、雪火も文句を言いながらも、気が気でないようだ。
(結果が……悪かったらうらむからな)
ぎろりと、画面を睨みつける。
 
『ようこそ、占いの館に』
その声と共に、突然、画面が切り替わる。
画面いっぱいに占い師に扮した女性の顔が映った。
どうやら、やっと始まるみたいだ。
 
『久しぶりのお客さんでうれしいわ。来てくれてありがとう』
「おお〜、雪火しゃべったぞ。これ、よく出来た機械だな」
「そうか? 普通だと思うぞ。決められた映像と音声を流してるだけだろ」
 
『数日振りに占いが出来るわ。本当に……本当に……来てくれてありがとう』
「……」
「……」
 
『このアトラクション、全然人気が無くて……、他のアトラクションは、あんなに並んでいるのに……」
今にも泣き出しそうな声で語る占い師。
「雪火、これ、よく出来た機械だな」
「……ああ、そうだな」
なんていうか、愚痴を言うなんてリアルだ。
 
『それじゃ、え〜とっ、占いが白鳥つぐみちゃんと大嵩雪火くんだったけ……』
「へぇ〜、名前を打ち込んだだけなのに肉声でしゃべってくれるんだ」
允は占いの機械に感心していたが、雪火はその名前に突っ込みを入れる。
「というか、お前、白鳥つぐみって……」
「ああ、こないだ教えただろ。オレの女装する時の名前」
「な、何で、お前は、その名前で入力しているんだよ」
「だって、男女のペアじゃなきゃ相性占いは出来ないみたいだし」
「だ、だからってお前」
「別にいいじゃん。遊びなんだし」
 
『ふん、ふん、これはこうと……』
映像の中の占い師は、近くの占い道具を色々と使って占っているようだ。
水晶玉、タロットカード、トランプ、振り子、羅針盤、他にも良く分からないものを、無差別に使っていく。
正直、占っているというよりは、オモチャで遊んでいるようにしか見えない。
「おお、ずいぶんとリアルな占い映像だな。何か信憑性ありそうだ」
「……そうか? こんなわけの分からない占いを実際にやられたら、オレだったら逃げ出すぞ」
 
『え〜い!! とりゃぁ!! ほぉう!!』
占い師は、水晶玉に向かって、気合を込めていた。
無駄に力を込めて。
雪火も允もそれをじっと見守る。
雪火の心情は、呆れと侮蔑でいっぱいだったが。
 
『出たぁーー!! 占いの結果がぁ!!!』
突然奇声を上げて叫ぶ占い師。
「うわっ! びっくりした」
「怖いな……こいつ」
允と雪火がびびっていた。
 
『それじゃあ、ズバリ、雪火君、あなたつぐみちゃんのことがすきでしょ』
「な、な、な、いきなり何言ってやがる!!」
いきなりの占い師の断言に、雪火は真っ赤な顔をして食って掛かる。
「あははははははっ」
その結果を聞いて允は笑っていた。
「ってお前も何笑っているんだよ!」
「落ち着けよ、雪火。これはただの占いだって。しかも機械がやっている」
「そ、そうだけど」
そう、そうなのだ。
これはただの占い。
しかし、機械ごときにここまで図星を当てられると、腹が立つ。
 
『とりあえず、まだ2人は付き合ってないわよね?』
(いやそんな事聞かれても、機械相手に答えられないんですけど)
『まぁ、まだ付き合ってないとして答えてくわよ。間違ってたらごめんなさい』
「何なんだ。このいい加減な占いは?」
曖昧な言い方に雪火はツッコミを入れる。
「でも、占いってそういうものじゃないか?」
「だったら、いきなり断言するなよって感じだぜ」
 
『恋愛が成就する確立は……う〜ん、色々と難しいわね』
「な、何だって〜!」
「機械相手に叫ぶなよ、セッカ。というより何驚いているんだ?」
「え、いや……オレは別に」
 
『まず雪火くん。色々、悩んで悶々としているんじゃない?』
「……」
雪火はもう何も言わず、ただ機械を睨みつけた。
允はただくすくす笑っている。
 
『もしかして、彼女に告白しようと意気込んできたんじゃ』
「んなっ!」
あまりの図星の連続に奇声を上げた。
「?」
驚く雪火を不可解な顔をしてみる允。
 
『ま、でも、脈が全く無いってわけでもないと思うな〜』
「ホントかよ」
「セッカ。何でさっきから、食いついているんだ?」
「べ、別に何でもねえよ」
 
『でも、一つ間違えると、ずっと友達のままで終わっちゃうゾ。じゃあ告白がんばってね』
「う〜〜……」
雪火はそれを聞いてうなり続けた。
 
そんなこんなで『占いの館』のアトラクションは終わった。
 
 
 
ドアから出た時、雪火は一つ理解できた事があった。
(なるほど、客が来ないわけだ)
 
「しかし、何だったんだ? ここの占い。相性占いにしたはずなのに、全然相性のことが出てこなかったし」
「そういえば、相性のこと何も言われなかったな」
「まぁいいや、結構面白かったし」
「オレはちっとも面白くなかったぞ」
允は、機嫌の悪い雪火を見て笑顔で言う。
「でも、セッカの事ばっかりで、オレの事は全く言われなかったな」
「そうだな。俺のことばっかり言われていた」
「もう、セッカばっかりずるい」
「ずるいってオレだって、あんな事ばっかり言われてうれしくないっての!」
「ふ、ふふふ……」
允は思い出したか、笑い出した。
「そういえば、あの占い機械、セッカがオレの事を好きだっていってたな」
「い、いや、あれは……」
雪火がうろたえて、允に無いか言おうとするが、上手く言葉が出ない。
そうしているうちに允が後を続ける。
「そんな事あるわけ無いのにな〜」
「……え?」
「オレとセッカ、男同士だし」
「……」
「占いの機械ってあてになんねーな」
「……ああ」
「ま、女だって入力したオレもオレだけど……」
笑いながら言う允とよそに、雪火は沈み込んだ。
 
 
 
はむはむ……
もぐもぐ……
雪火は、窓際で一人食事を取っていた。
ちなみに今、允はトイレに行っている。
 
「はぁ、上手くいかねーな」
雪火は窓の外を見ながらつぶやいた。
テラスでアイスクリームを食べさせあっているカップルが見えた。
今の雪火にとってはすごく不快だ。
 
あの占いの館での出来事……。
あれを思い出して力なく、机の上に突っ伏した。
 
――それじゃあ、ズバリ、雪火君、あなたつぐみちゃんのことがすきでしょ
占い師に言われた事が思い出された。
 
そういえば母親にも……
――あんた、あの子のこと好きなんでしょ
 
公園で一度遊んだ子供からも……
――ねぇ、お兄ちゃんって、あのお姉ちゃんのこと好きなの?
 
カメラマンのお姉さんからも……
――雪火くんって、つぐみちゃんの事好きなんでしょ
 
とどめに今日の機械の占い師だ。
オレってそんなに分かりやすいのかよ。
それなのに……。
允には……
 
――そんな事あるわけ無いのにな〜
――オレとセッカ、男同士だし
 
傍から見ていたらバレバレらしい自分の態度だが、允は少しも分かっていないようだ。
「はぁ……」
ため息が止まらない。
分かってほしくないけど、分かってほしい……。
わがままだけど、これが微妙な恋心である。
雪火は完全にやる気をなくしてしまった。
もはや、意気消沈しているだけである。
 
「やっぱり今日はやめようかな?」
雪火がそう独り言をつぶやくと、だれかがそれに返した。
「やめるって? 何を?」
「告白を」
「告白!? じゃあやっぱり、あの子に告白する気だったの!」
「悪いか?」
「うんうん。悪くないよ。っていうか告白すべきよ!」
「だけどなー……って誰だよお前!」
雪火はつい、話し込んでしまっていた相手の方に顔を向ける。
 
はむはむ……
もぐもぐ……
そこにいたのは、隣のいすに座り、ポテトを食べていた女の子だった。
歳は、雪火より一回りは小さく、小学1,2年生くらい。
髪を赤いリボンで結び、小さなデジカメを首からかけていた。
 
「な、なんだ……」
もぐもぐ……
はむはむ……
雪火が問いかけても、その女の子はフライドポテト食べているだけ。
ちなみにその子が食べているのは、雪火のポテトだ。
 
「な、何だよお前。誰だよっ」
「もう、いきなり『お前、誰だ』なんて酷い挨拶ね」
その子は生意気そうにすました顔で答えてくる。
「もう、レディーに対して名前を聞く時は、自分から名乗るものよ」
「な……」
「全く、顔はいいくせに、女の子の扱いが下手なのね」
「な、な……」
雪火は、いきなりの乱入、すました態度、更には生意気な口調にいきなり食われた。
(なんなんだ〜! この子は〜!)
 
それを言い終わると、また女の子ははむはむとポテトを食べ始めた。
もちろん、雪火の食べ途中のフライドポテトだ。
少女からは、自分から名乗れとは言われたが、とても名乗る気になれなかった。
この子が誰かなんて、特に知りたいわけでもない。
……というか出来ればかかわりたくないような子だった。
 
「分かった……それやるから、大人しく帰れ」
しかし、その少女は変える様子も無く、雪火を見てにんまりと笑う。
雪火は、背筋にぞわりとするものが走った。
不気味だ……。
この感覚、そうこれは、天敵とあった時の感覚だ。
雪火にとって生涯最大の敵、母親の感じと非常に似ていた。
(やばい! はやく追い返さないと!)
危険を感じて動き出そうとした時、少女の方がさきに口を開いていた。
「ね♪ 告白するとか、やめるとか言っていたのは、あの子に対してでしょ♪」
「あ、あの子って誰だよ……」
この場合、あの子といえば允しかいないのだが、果たしてこの少女にも見られているのだろうか?
とりあえず、雪火はとぼけてみた。
「あの子って言ったら、この子しかいないでしょ」
そういいながら女の子は、持っていたデジカメをいじって、画面を表示した。
「ほら、ずいぶんと可愛いこの子よ」
するとそこには、この店に入る直前の自分と允の姿が表示されていた。
「な……」
撮られていたらしい。
しかも、こんな子供に……。
 
あわてている雪火を横目に、女の子は得意そうに話す。
「この子に、告白するかどうかで悩んでいたってことね」
「べ、別にそんなんじゃねえよ」
「それじゃ、さっき告白するって言っていたのは誰に対してかしら」
どうやら、さっきの雪火の言葉に対して言っているようだ。
雪火は自分のうかつさを後悔した。
允の前では言い出せない事をこんな子供の前で言ってしまうとは……。
「告白? 何のことだ?」
雪火は、すました顔でとぼける事にした。
「さっき言ってたじゃない?」
「言ってない!」
雪火は、力強く否定した。
なぜかよく分からないが、ここで肯定してしまったら良くない事が起きると予感した。
だから、あえてバレバレでも否定した。
「ふ〜ん、あくまで否定するんだ?」
「……何とでもいえ」
すると、その少女はさらにデジカメをいじりだした。
「知ってる? 最近のデジカメには録音機能もあるのよ」
ポチッ
そのボタンを押すと、カメラから声が流れ出した。
『「やっぱり今日はやめようかな?」「やめるって? 何を?」「告白を」「告白!? じゃあやっぱり、あの子に告白する気だったの!」「悪いか?」』
「うわぁっ!」
その流れ出した音声を押さえ込もうと、飛び込む。
しかし、少女に即座にかわされた。
少女を睨みつける雪火。
そして、得意そうに雪火を見下す少女。
音声はいつの間にかオフになっているようで流れていない。
(まずい……あれを允の前で流されたら……)
 
もはや完全に雪火の立場は少女の下にあった。
雪火は、遠慮がちに少女に聞いてみた。
「い、一体何が望みなんだよ?」
少女は得意そうに笑顔を浮かべる。
4,5歳は離れている女から、見下されているとは屈辱である。
「そうね……」
 
少女が何か口を開こうとした瞬間だった。
「おまたせー、セッカ♪」
のんきな顔をして、戻ってきた。
「あれ、セッカ。この子は?」
やはり允は、雪火と対面している女の子に疑問視を投げかけた。
 
(くっ、こいつの事をどう説明すべきか……)
雪火は目の前の少女の事で頭を悩ませた。
まさか、たった今あったことを全て話すわけにはいくまい。
下手すると、允の前であの録音を流されることだってあるのだ。
 
どうすべきか悩んでいるところで、少女が動き出した。
突然さっきまでの得意気な表情をかき消して、涙ぐみ始めた。
「う、う、お姉ちゃん……わ、わたし……」
猫なで声で允に擦り寄る少女。
(な、何だ、こいつは……いきなり猫かぶりだしたぞ)
雪火はその様子に呆然とした。
 
すると、允はその女の子から、色々と聞き出した。
女の子が言うには、家族と一緒に来たらしいがはぐれてしまったらしい。
そして、お腹を空かせてこのバーカーショップに来たらしい。
 
(でも、十中八九嘘だろうな)
さっきまで女の子と話し合っていた雪火にとっては分かる。
しかし、允は間違いなく信じ込んでいた。
 
「どうしようか、セッカ。この子迷子センターまで連れて行く?」
「やだやだ! 迷子センターに行ったら遊べなくなる!」
允の言葉にじだんだ踏んで嫌がる女の子。
雪火も口を出す。
「おいおい。わがまま言うなよ。それじゃどうすればいいんだ?」
「だって、うちの家族、もし迷子になっても迷子センターには行くなって言うんだもん」
「そんなバカな……」
雪火は少女の無理やりな言い訳に呆れたが、允は信じ込んでいるようだ。
「それじゃ、迷子になった時の待ち合わせ場所とかはある? 家族と決めていない?」
「うん。パレードが終わったら入り口のところで会おうって……」
「何だそれ? 何で迷子になった時の待ち合わせ場所に時間指定までついているんだ?」
「セッカてば、そういうことまで口出ししたら駄目だって」
女の子に突っ込みを入れる雪火だが、允にさえぎられる。
どうやら、允は女の子のことを少しも疑わずに信じているようだ。
腕を組んで悩みだした。
「う〜ん。どうしようかな?」
「どうもこうもないだろ……。とにかく、迷子センターまで連れて行けばいいだけだし」
「やだやだやだ〜! 一緒に連れて行って〜」
雪火の言葉に嫌がって、腕を振り回し泣き叫ぶ女の子。
「こら、わがまま言うな」
雪火が、その子を捕まえようとした瞬間、女の子は手を伸ばしてデジカメのスイッチに手をつけた。
そして、不気味な笑顔を浮かべて雪火を見つめた。
その笑顔が物語っていた。
もし、迷子センターに連れて行こうものなら、先ほどの録音を公開すると……。
 
「し、しかたない。それじゃ、お前も一緒に遊ぶか……」
「え? いいの、お兄ちゃん?」
女の子は白々しくも、笑顔を浮かべる。
その笑顔が酷く悔しい。
その提案で允にも振る。
「いいか? それでミツ……つ、つぐみ」
雪火は、ミツルと言いそうになってしまったが、慌ててつぐみと言い換える。
まさか、少女にしか見えない子を男の名前で呼ぶわけにもいくまい。
 
「ああ、オレもいいぞ」
(うわっ、ミツルのバカッ)
允からも承諾を得たのはいいが、よりにもよって『オレ』なんて一人称を言ってしまっていた。
雪火は、小声で注意するが、時遅く少女が「?」を浮かべて允を見ていた。
允もしまったという顔を浮かべている。
 
「オレ?」
女の子は、
「あはは……わたし、自分のことつい『オレ』って言っちゃうんだ……ヘンかな?」
あわてて、弁明する允。
雪火もひたすら焦った。
(まずい)
この子には允が女装していることを絶対知られてはいけないような気がした。
あんな脅しをかけてくる子だ。
これ以上、弱みを見せたらどうなるか知りたくも無い。
女の子が口を開く。
「ヘンじゃないよ。ちょっとカッコいいし」
「そ、そう。ありがとう」
どうやら、すぐに納得してくれたようだった。
これには、助かった。
 

……
………
 
その後、食事を済ませて、バーガーショップを出た。
 
「そういえば、お前。名前はなんて言う?」
「ひよこ」
「へぇ、ひよこちゃんって言うんだ」
「オレ…じゃなくてわたしはミツ…つぐみって言って、こいつが雪火って言うから」
允の言葉は、どうにもこうにも危なっかしい。
ひよこに怪しまれてないか、雪火は気が気でない。
「お姉ちゃん、無理して『わたし』なんていわなくていいよ。『オレ』の方がお姉ちゃんには自然な気がするし…」
かく言うひよこは、まるで気にしていない。
どうやら、允は男言葉を使っても大丈夫そうだ。
つぐみと言う名前で呼ぶことは、気にしなければいけないが。
 
「それから、ひよこ。連れて行ってはやるけど、わがままはあんまり言うなよ」
「うん、分かっているよ。別におにいちゃん達のデートを邪魔したりしないよ」
「もう、デートって…そんなんじゃないって」
デートか。
雪火にとって、何故か遠い響きに感じる。
頭の中では、告白はもはや後回しになっていた。
ただ、ひよこをどうするかだけで、頭がいっぱいだった。
 
雪火は、ずいぶんと素直になった少女ひよこを見る。
「全く、一体こいつの狙いは何なんだか……」
本当に疑問だ。
あれだけの脅しをかけてきて、一緒に遊ぶというだけでいいのだろうか?
 
「セッカって、何だかんだ言って優しいんだから」
何も知らない允は、雪火に対して笑顔で賛辞していた。
その笑顔が雪火にとって励ましとなった。
(ああ、癒される……)
 
それに対して、脅しをかけているひよこは、雪火にだけ見えるようにニヤリと笑った。
勝ち誇った不気味な笑顔。
(女は悪魔だ……)