雪火宅、休日、夜

ガチャ…
下の階の玄関からドアを開けた音が聞こえた。
どうやら母親が帰ってきたようである。

「雪火〜〜!!ご飯買ってきたわよ〜〜!!降りてきなさ〜い!」
ずいぶんと大きな声を張り上げて雪火を呼ぶ。
全く…あんなに大きな声を出さなくても聞こえているのに…
雪火は下の階へ降りていった。

そして、雪火が今へ入った瞬間だった。
「ていっ!!」
「ぐあっ!!」
雪火は、強い衝撃を体中に受けた。
何か殴られたような衝撃。
後ろに吹っ飛ばされ、倒れこんだ。
(何だ…何があったんだ)
雪火が前を見ると、母親がこぶしを突き出していた。
つまり…今の衝撃の犯人は、母親と言うことだろう。

「な、何をするんだよ!」
身体を押さえながら講義する雪火。
「別に…あたしは、嘘つきに罰を与えただけよ」
母親がニヤニヤと笑顔を浮かべながらそう言う。
雪火はいやな予感がして母親に聞いた。
「う、嘘つきってなんだよ!」
「嘘つきは、嘘つきでしょ。だって、あんた、男の友達と遊ぶなんていっておきながら、あんな可愛い女の子と会ってるなんて♪」
「な、なななな…」
雪火のいやな予感は的中した。

「まぁ、あたしは、そんな嘘行く前からお見通しだったんだけどねぇ」
「何で、知ってるんだよ!そんなこと!」
雪火は嘘をついていない。
本当に男の友達と会って、遊んだのだ。
だけど、そんなことは後回しだ。

「そうね、あたしが買い物に出かけた時。 偶然!! 見かけた訳よ。雪火が可愛い女の子と会っている所を」
何故かやけに偶然というところを強調している。
母親がこういうときの答えは唯一つである。
(嘘だ…絶対に偶然じゃない…)
雪火が出した答えはこうだった。
(尾行されてた……)

「それにしても可愛い子だったわねぇ」
母親が話している中、雪火は考える。
…どうやら、允が男であることには気付いていないようである。
…おそらく、遠くから見ただけで話は聞こえていなかったのだろう。
…盗聴器の類が使われた心配はなさそうだ。
…冗談みたいな話だがこの母親は、それぐらいの事はやってのける。

「ね、ね、それであの女の子の名前教えなさいよ」
「…しらねぇよ」
「あ〜、雪火、もしかしてまだ白を切るつもり?」
…今、言っても無駄だろう…
あの女の子が実は男だなんて…
それにあれを内緒にすることは、允との約束だ。
母親なんか、言うわけにはいかない。
雪火はあくまで白を通すことにした。

「それで、オレの夕食は、これなのか?だったら、自分の部屋で食べるから!じゃあ!」
「ああっ、待ちなさい!雪火!!」
雪火は一目散に部屋に駆け上がった。

すると、その後ろで母親は再び声を上げる。
「あんた、あの子のこと好きなんでしょ」
雪火はその言葉に振り返った。
「な、何を」
「隠さなくていいわよ。それくらい。あんたの態度見てれば分かるし」
「……」
「まぁ、今すぐじゃ無くてもいいから、いつかは連れてきなさいよ」
母親はそういって去っていく。
雪火は、階段に取り残された。