少女少年SS(千明ルート)一部ダイジェスト

千明「大丈夫だよ。私は君さえいれば」
千明「もう、いい加減にしてよっ!」
千明「うんっ、私もそれ好きだよ」
 
あおい「(うわ〜千明まるで別人みたい)」
 
 スタジオ内で海外ドラマの吹き替え中。
 千明がマイクに向かって話しかけている。
 モニターを見ながら表情豊かに。
 その後ろで、じっと見守るあおい。
 小休憩へと入る。
 
あおい「千明。お疲れ様」
千明「あおい。見てどうだった声優の収録は?」
あおい「うん、歌や番組の収録とはやっぱり全然違うね。何か新鮮だよ」
千明「まあね。オレはこっちの方が本業だから、これが当たり前だけどな」
あおい「千明、男言葉でてるよ」
千明「おっと、いけね」
あおい「それに声優って言うと結構年配の人が多いと思ったけど、結構若い人も多いんだね」
千明「まぁね、最近は結構若い人も多くなってきてるし、オ…あたしたちと同じくらいの年の子もね」
あおい「でも、ごめん。ボク……あたしが突然千明の仕事を見たいだなんて言い出すから、スタジオにまで入ってよかったのかな?」
千明「あ、それは全然大丈夫だって。それはそうと、あおいは声優もやる予定なのか?」
あおい「声優をやりたいと言うより、色々な事をやってみたくて、それに妹があたしの声をアニメでも聞きたいとか言い出して」
千明「あはは、また妹さんが原因か〜」
あおい「だ、ダメかな。そんな理由じゃ」
千明「いや、理由は人それぞれだって。そうだ!」
あおい「え? どうしたの?」
千明「いや、これからの収録にあおいも参加してみないか?」
あおい「え、えー! ボクがっ、む、むりだよっ」
千明「オレの役がまだほんの一言二言喋る役が残っているから」
あおい「や、役って千明の役が?」
千明「声優の場合だと、主演と同時に脇役をやったりすることも多いんだよ」
あおい「で、でも」
千明「大丈夫。あおいは飲み込み早いから、オレ監督に話してくるよ」
あおい「ちょ、ちょっと」
 
 2人は、いつの間にか男言葉で話していることも忘れて話し込んでしまっていた。
 次からの収録にあおいも参加することになった。
 
 そして収録終了
 
千明「あおい。お疲れ様」
あおい「千明もお疲れ様」
千明「どうだった?」
あおい「ちょい役とはいえ緊張した〜」
千明「あはは、あおいは発声とか基礎はできているんだから、そんなに緊張しなくてもいいのに」
あおい「それでも緊張するよ。でも、千明とか同年代の人も結構いたから少しは落ち着いたけど」
千明「それはそうと、これから声優プロダクションの方でちょっと打ち合わせがあるけどくるか?」
あおい「うん。邪魔じゃないなら」
 
 あおい、声優プロダクションに来る。
 

あおい「うわぁ、大きいなぁ」
千明「打ち合わせとかには参加させられないけど、この中は自由に見て回ってもいいぜ」
あおい「う、うん。それじゃ好きに見て回るよ」
千明「それじゃ、この場所で待ち合わせな」
 
 あおいが会社を見て回っている最中、年配の声優2人を見かける。
 挨拶をしようとした瞬間、その2人から話し声が聞こえる。
 
声優A「また、若いだけの奴が採用かよ」
声優B「ホント、いい加減。話題づくりのためだけに若い奴を採用するのはやめて欲しいよな」
声優A「実力なんて全然無いくせに、若いだけで役をさらっていくんだから」
声優B「監督もいい加減、若い奴らの実力の無さに気づけっての」
声優A「万丈千明とか、あいつだけはいいけど、他の中高生の声優の演技なんて聞いてられねーっての」
声優B「あんな棒読みでOKもらってるって、声優バカにしてるよな」
声優A「しっかし、今の若手声優も楽になったな」
声優B「棒読台詞を言ってりゃ金もらえるんだから」
声優A「ヘタクソでも若くて可愛ければ、最近はバンバン採用されて人気でちまってるし」
声優B「ファンも会社も声優を勘違いしちまってるんだよ」
 
 話しながら2人組は行ってしまう。
 あおいはぽつんと見ていた。
 複雑な気分をしながら待ち合わせの時間になったので場所へもどろうとする。
 そこで社長室の前で、千明と女の子が言い争っているのを見る。
 
千明「だから! そんなの間違ってるって!」
女の子「そんなの千明ちゃんには関係ないでしょ!」
 
 聞き耳を立ててこっそりそれをみるあおい。
 
千明「関係なくなんてないよ。同じ声優として」
女の子「私まだ声優じゃない。声優としての仕事何ももらっていない!」
千明「だからって、そんな事しちゃだめだって」
女の子「うう……」
千明「ねぇ、声優業界がどんな風に言われているのか、分かってるでしょ」
女の子「……」
千明「最近、実力も無いのに若いだけの声優が役をもらっているのは『枕営業』をやっているからに決まっているとか、声優は役をためならなんでもするとか言われているんだからっ」
 
あおい「(ま、枕営業!?)」
 
千明「今、声優はどの業界からもバカにされていたりするんだよ」
女の子「……」
千明「だから、しちゃだめだよ。役は実力でとらないと。ヘンな噂流されちゃうよ」
女の子「だったら、私どうすればいいの!? どうすれば声優として仕事がもらえるの!?」
千明「それは……しっかり特訓して、何度も挑戦して」
女の子「私、もう何度も挑戦した! 何度もオーディション受けた!」
千明「確かに運が悪くて、成功するまで時間がかかる事もあるよ。でも特訓していれば絶対いつかは……」
女の子「そのいつかっていつ!?」
千明「え……」
女の子「私は千明ちゃんとは違う! 自分のことと当てはめないで!」
千明「え、あ、あたしは……」
女の子「千明ちゃんは、才能にも恵まれていたし、運もよかった。でも、私は千明ちゃんほどの才能もないし、運もない!」
千明「あ、あたしはただ……」
女の子「今のあたしは、高い授業料を払って声優養成所に行って、いつ芽が出るか分からないことをしてるだけ!」
千明「だからって……」
女の子「収入が入るまで一体、いくらお金を払えばいいのか見当もつかない!」
千明「それは……」
女の子「声優になれるまで何年待てばいいのかも分からない!」
千明「……」
女の子「だから私思ったの。若いことを武器にできるなら今しかないって」
千明「だから、社長と?」
女の子「そう。こんな事、みんなやってる。私みたいに人はみんなこうする事で仕事をもらっている!」
千明「それじゃ、その後はどうするの?」
女の子「え?」
千明「そんな方法で仕事をもらった後、一体どうするの?」
女の子「どうするって?」
千明「そんな方法で主演を手に入れた所で、アニメはせいぜい半年足らずで終わっちゃうよ」
女の子「……」
千明「ファンとか、一般層は、せいぜいネットでおかしな噂を立てられるぐらいで済むかもしれないけど、声優業界だとそういうわけにも行かない」
女の子「……」
千明「分かっちゃうんだよ。偉い人は。体を使って仕事をもらったなってのが」
女の子「……」
千明「それが分かってしまった場合、もうまともに取り扱ってもらえない。あとは干されるか、ずっとそうやって仕事をもらっていくかどっちかだよ」
女の子「……」
千明「声優としての実力で仕事を勝ち取らなきゃ、何も変われないよ」
女の子「あたしはこの役をもらえる事で変われるっ!」
千明「本当にそう思っているの?」
女の子「うん! 絶対にこのアニメは上手くいく。そうすればあたしにも仕事が来るはずだから」
千明「そう……」
女の子「千明ちゃんも原作は知ってるでしょ! 有名だし」
千明「うん……」
女の子「アニメってのはキャラだけじゃない。そこには声優というのも付きまとうんだから、アニメの人気も出れば私の人気も出るはず」
千明「そう……もう決心は揺るがないんだね」
女の子「うん、千明ちゃん、今までありがと」
千明「じゃあね」
 
 その瞬間、あおいは千明と目が合ってしまう。
 
千明「ごめん、あおい。嫌な事聞かせちゃったな」
あおい「あの……千明、今の話って」
千明「ああ、『枕営業』だよ。聞いたことはあるだろ」
あおい「え、え、『枕営業』って、あ、あのアレだよね。役をもらう替わりにエッチな事を要求してきたりする」
千明「ああ」
あおい「う……やっぱりそうだったんだ」
千明「今の子はオレの後に入った子で、色々教えてあげていた子なんだけど、いつまでたっても芽が出なかったことに、やきもきしてあんな事に手を出しちゃったみたいで」
あおい「……」
千明「実の所、アイドル業界じゃ今では都市伝説扱いになってるのに、声優業界ではこんな事まだやってる」
あおい「……」
千明「ごめん。あおい。声優業界に幻滅しちまったよな」
あおい「う……ごめん(否定できず)」
千明「仕方ないよ。オレもすごく残念だし」
 
 嫌な気分のまま岐路つく2人。
 
 
 数日後
 あおいの家で
 
空「あおいちゃん。これ、これでしょ。あおいちゃんが当てた声って」
あおい「うん、よく分かったね。どうでもいいような役で2,3言しか喋らないのに」
空「分かるよ。だってすごく上手いもん」
あおい「あはは、そんな事ないよ」
空「あるって、ねぇ、あおいちゃん。あおいちゃんも本格的に声優やってみない」
あおい「え?」
空「あおいちゃん声優やっても大丈夫だって。上手くいくよ」
あおい「あはは……」
 
 複雑な気分のあおい。
 ドラマが終わり、妹がTVを切ったことに疑問を思う。
 
あおい「あれ? TV切っちゃうの。この後、前から楽しみにしていたアニメがあるっていってたじゃない?」
空「んー。あれ。あのアニメならどうでもよくなっちゃった」
あおい「え、どうして?」
空「だって、何回か見たけど、主演の声が全然あってないんだもん。ヘタだし」
あおい「そ、そう」
空「原作は面白いのに、声優が駄目なせいで台無しだよ〜」
あおい「そう」
空「あ〜あ、千明ちゃん辺りがぴったりだと思ったんだけどなぁ。何も新人にしなくていいのに」
あおい「……」
空「ね、やっぱり、あおいちゃんも声優やるべきだよ。こんなヘタな人でも主役を取れるんだもん。あおいちゃんなら声優界のトップ目指せるって」
あおい「そ、そうかなぁ……」
 
 妹が楽しそうに語る中、ものすごい複雑な思いのあおいだった。