ヤブサメ町、バーガーショップ、休日、昼(回想)

「いやー、面白かったなぁ、あの映画」
允は、ポテトを頬張りながら雪火に話しかけた。
「あ、ああ…」
雪火もそれに合わせて、ポテトを食べながら答える。

允の方のトレイに乗っているバーガーセットは、雪火のバーガーセットより少し豪華だった。
それもそのはず、雪火の頼んだものがお子様セットで、允は頼んだものはレディースセットだったのだ。
(ったく、女の格好しているからって何頼んでんだか…)
呆れている雪火の前で笑顔を浮かべながら允は食べ続ける。

「それにしてもさ…」
「何だ?」
「びっくりしたよなぁ、あのシーン。あの最後の敵が主人公の親友だったなんて…」
「あ…ああ……」
「オレ、結構ショックだったよ」
「あ、ああ…オレも、びっくりしたなぁ」
(ヤバイ…オレ、全然見てねぇんだよなぁ)
そう、雪火は映画の上映中、ずっと允のほうを見ていたのだ。
そんな中、允に映画の話を振られても、答えられるわけが無い。
ハラハラしている雪火をよそに允は、映画の話を続ける。

「それに、あの主人公の最後の戦い前のシーン、すっげえ、格好よかったよな」
「あ…ああ…」
「なんたって、今まで助けてくれた親友との決別と決断」
「あ…ああ…」
「戦う前に、あの決め台詞!」
「あ…ああ…」
「う〜〜ん!かっこいい男は違うな〜」
允は、焦りながらたじろいでいる雪火の前、今日の映画の感想を体じゅうで伝えていた。
大きな声を上げ、身体や手を大きく動かしながら。
そして、時には笑い、怒ったような顔をし、楽しそうな顔、泣きそうな顔を浮かべながら。
雪火もたじろぐのをやめ、允をじっと見ていた。

「ヒロインの2人も、結構有名な人を使っていたよな。2人とも美人だし」
「ああ…」
「オレはどっちかと言えば、最後に主人公と結ばれたヒロインより、前半で殺されてしまったヒロインの方が好きだな」
「ほぅ」
「なぁ、雪火。お前はどっちのヒロインの方が好きだった?」
「え……?」
允からの映画に関する質問。
恐れていることが起きた。
しかし!この程度の質問はたいしたことが無い。
映画の内容ならともかく、ヒロイン2人の顔は映画を観る前から知っているのだ。

「う〜ん」
雪火は、2人の女優の顔を思い浮かべる。
2人とも確かに美人と言えば美人だ、しかし…。
どちらも雪火の好みとは言えない…雪火の好みは…。
目の前にいるハンバーガーをほうばる允の顔を見る。
「ん?」
雪火の顔をじっと覗き込んでいる允。
雪火は、つい目をそらしながら言う。
「どっちも、オレの好みじゃねえよ…」
「もぅ、雪火ってば、好みに好みにうるさいなぁ」
允は、笑いながら言う。
「まぁ、オレも殺されたヒロインの方が好きって言っても、やっぱ、あの映画の一番の見所は、主人公と親友の友情だと思うし」

雪火も、それにうなずいて同意した。