ヤブサメ町、公園、休日、午後(回想)

「あ、ちぇっ…またこれだよ…」
允は、口を尖らせながら言う。

ここは、商店街近くの公園。
雪火と允は、約束のビックリマンチョコを買ってこの公園で開けてみていた。
開けて食べ、話をしながら、また開けてを繰り返している。

雪火がまた一つ食べ終えて、封を開ける。
「また…これか…」
そこで現れたシールは、割と珍しいにもかかわらず、雪火にとっては珍しくないシールだった。
「あ〜〜!!いいな、それ!」
横からそれを見て允が目を輝かせる。
「じゃあ、これお前にやるよ…」
「えっ!いいのか!?」
「ああ、オレこれさっき引いたし、…ほら」
「あ!!ホントだ…!!いいな〜。ダブってるとはいえ、そんなレアなのポンポン引けるなんて」
「そうか?ダブってたらレアでも同じようなもんだぞ」
「う〜ん、だったら全部、見終わった後で、交換し合おうぜ!」
「ああ…」

雪火と允はお互い封を開けて、シールを見てを繰り返す。
その時の允の表情は、映画を観ていたときのように表情豊かに変わっていく。
珍しいシールを引いては笑顔を浮かべ目を輝かせ、はずれのシールを引いては残念そうに口を尖らせた。
そして、全てのチョコを食べ、シールを見せ合い、お互い自分の家から持ってきたシールも含めて、交換し合う。
それを終えた頃、允は満足そうに笑顔を浮かべていた。
でも、少し心配そうに雪火に声をかける。

「でも、いいのか?」
「何がだ?」
「何か…オレばっかり得したような気がするんだけど…」
允の出したシールに比べ、雪火の出したシールはどれも中々手に入らない珍しいものばかりだった。
「別にかまわねえよ…どれも、ダブってるものばっかりだし…」
雪火の言葉に嘘は無い。
どうやら、レアなシールばかりダブってしまっていたのである。
しかし、それでは割に合わないのも事実だが…
允の笑顔を見れることに比べれば、雪火にとってそれくらいどうって事無かったのである。
「う〜ん、だったら…今度オレがレアなシール、ダブったらお前にやるよ♪」
「ああ、ありがと…」
そういいながら、二人は歩き出した。


ふと、允のほうを見る。
改めてみても、美少女そのものの容姿。
「しかし、すごいな。その格好」
「そうか?」
允は、スカートのすそを持ち上げながら、笑って言う。
雪火は、つい目をそらして言葉を続ける。
「お前って…いっつも、そんな格好しているのか?」
「う〜〜ん。いつもって訳じゃないぜ。レディースデーとかの女だと特をする時だけ」
「だったらさ…みんな、驚かないか?そんな格好できたら?」
「い〜や、今までこの格好を見せたことあるのは、この服とかつらをくれた近所のお姉さんと母親くらいだし…」
「えっ?それじゃ…」
「あっ、そういえば、学校の友達に見せるのは、雪火が初めてだな…」
「オレが初めて…」
「あっ、それから、オレがこんな格好している事、クラスの連中には秘密にしといてくれよ」
「え、秘密…か?」
「ああ、秘密だ…オレと雪火だけの」
「…分かった、絶対誰にもいわねえよ」

オレと允だけの秘密…その言葉が雪火の脳裏に反芻していた。